私は絵画を軸に作品を制作しています。そして作品はほぼ日常生活の中で見つけられるものをモチーフにしています。例えば平面作品においては印刷物の拡大イメージ、インターネットの検索結果画面、ゲームの画面の荒いピクセル画のユニットなどを描いています。立体作品ではダンボール箱やふせんなどの日用品、額縁などを扱っています。立体作品はいずれもモチーフと同じサイズで、簡略化した上で絵具の塗りを強調した、実物と等サイズの模型のような着彩オブジェになっています。
このように日用品や引用イメージをモチーフにしていることについては、アメリカのポップアートの影響を受けています。ロイ・リキテンスタインの作品が1960年代に世に現れたときに持っていた驚きー非ヨーロッパ的な生活文化をアイデンティティとして消費文化で見られるモチーフを絵画の俎上に乗せて提示したことーに私は興味を持っています。絵画というメディウムに惹かれつつも、消費社会によって生活も絵画との関係も変容し、偉大な絵画と同じように描くことは不可能になってしまったという感覚。このような時間的、地域的な変容を受け入れた上でなお絵画にコミットするにはどうしたらよいのか。リキテンスタインの抱えていた問いを私はそのように受け止めており、その観点から彼の作品に共感しています。
私は描画に油絵具や岩絵具を用いていません。自作で用いている絵具は全てアクリル絵具ですが、それはチューブの絵具ではなくて顔料を水で溶いてアクリルメディウムを混ぜた自作絵具です。そして描くのではく、塗ることによって絵ができています。塗りで絵をつくるということは、本来作業として行われている行為を前景にする、という意味もあります。絵画技法は歴史的背景や視覚を背後に持つ既製品であると私は考えているのですが、その構成要素をカスタマイズしてハックすることでその既製品性を解体しているような感覚があります。この既製技法をカスタマイズした手法を用いてモチーフにした既製品を模造することで、人と環境の間にノイズやズレを生み出しつつ、現在の視覚経験が残響のように響く絵画を生成していこうとしています。